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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和53年(行コ)1号 判決

控訴人(原告) 明生木材株式会社

被控訴人(被告) 鹿児島県知事

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、控訴人は、主位的に「原判決を取り消す。被控訴人が片上義寛の昭和五一年一月一三日付霧島屋久国立公園特別地域内における木竹の伐採許可申請に基づき同年一二月一七日付でした許可処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決、予備的に「原判決を取り消す。被控訴人がした前記許可処分が無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

二、当事者の主張及び証拠関係は、次につけ加えるほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(控訴人)

1  控訴人は、次のように本件許可処分により本件山林の所有権を侵害され、またその所有権の行使を制約、妨害されて多大の損害を被り、あるいは被る虞れがあるので、本件許可処分の取消を求めるにつき、法律上の利益を有する。

(一) 控訴人は、かねてより本件山林内に生育する木竹の伐採許可を被控訴人に申請する意向を有していたところ、片上に対する本件許可処分が存続する結果、被控訴人に対する伐採許可申請を当分の間見送ることを余儀なくされ、所有権の行使を制約されている。

(二) 控訴人は、本件山林を処分する計画を有し、昭和五一年一二月以降十数件を越える売買の申込みを受けたが、片山に対する本件許可処分があるためいずれも成約に至らず、本件山林の処分ができず多大の損害を被つている。

2  本件許可処分には手続上重大な瑕疵があり取り消されるべきである。すなわち、自然公園法一七条の趣旨は、自然公園法による指定地域内で木竹を所有し又はその処分権を有する者に対し、同法による公益的見地からする木竹伐採の制限を緩和し、禁止を解除して公益と私益を調整せんとするものである。しかるに、本件許可処分がなされた当時、片上は本件木竹につき所有権その他の処分権を有していなかつたから、許可を受ける法律上の利益がなく、またその許可を受けても伐採を実行することは法律上不可能であつて、本件許可処分は、自然公園法一七条の趣旨からも全く無意味である。しかも、この許可が存続するため、控訴人は本件山林の所有権を侵害され、多大の損害を被り、あるいは損害を被る危険があるうえ、本件許可処分を維持すべき公益上の理由はみあたらない。

(被控訴人)

控訴人の主張は、すべてこれを争う

理由

一、当裁判所も、次につけ加えるほか、原判決と同じ理由で控訴人の本件訴えはいずれも不適法として却下すべきものと判断するので、ここに原判決の理由を引用する。

1  自然公園法一七条三項に定める許可は、国立公園の風致を維持するため、その区域内に指定された特別地域内における木竹の伐採を一般的に禁止し、同法の右趣旨に則り具体的場合に右一般的禁止を解除して伐採行為の自由を回復させるものであつて、これによつて許可を受けた者に対し、私法上許可にかかる木竹の伐採権のあることを確定するものでないことは原判決説示のとおりである。したがつて、本件許可処分が存在するからといつて、右許可処分の対象となつた木竹につき、すでにその許可を受けた片上以外の者において重ねて伐採の許可申請をなすになんらの妨げとなるものではなく、自然公園法に定める要件が充足していれば、本件許可処分がなされた後においても重ねて許可処分がなされることもありうるのであつて、なんびとが現実にこれを伐採しうるかは、私法上右木竹の所有権ないし処分権の帰属により決せらるべき事柄である。そして、控訴人主張の本件山林が右許可を受けた者によつて伐採されるとしても、伐採による所有権の侵害ないしはそのおそれは、許可を受けた者の行為によるものであつて、本件許可処分によつて直接生ずるものではない。それゆえ、本件許可処分が存続するため、本件木竹の伐採許可申請を見合わさざるをえず、所有権の行使を制約されているから取消しの利益があるとの控訴人の主張はとうてい採用できない。

2  控訴人は、本件許可処分があるため、本件山林につき売買が成約に至らず多大の損害を被つている旨主張するけれども、自然公園法一七条三項の許可は、前記のようにいわゆる警察許可であつて、これが許可によつて申請にかかる木竹の所有権ないし処分権が申請者にあることを確定するものでもなければ、かかる権利を申請者に付与するものでもない。要するに、右許可は、木竹の私法上の権利関係とは関係なくなされるものであるから、控訴人主張のような事情が存するとしても、本件許可処分を受けた者が本件山林につき所有権ないしは処分権を有しないことを別に確定させることにより、その目的を達することができるものであつて本件許可処分が存するからといつて直ちに控訴人が自己の権利ないし法律上の利益を侵害されたということにはならないので、この点に関する控訴人の主張も理由がない。

3  控訴人は、本件許可処分がなされた当時、許可処分を受けた片上は本件木竹につき所有権その他処分権を有していなかつたから、許可を受ける法律上の利益がなく本件許可処分は無意味であるというが、前記のような本件許可処分の性質からして、許可を受ける者においてその対象となつた木竹につき所有権その他の処分権を有することは、許可処分が有効であるための法律上の要件であると解することはできず、かつ、許可にかかる木竹を伐採するかどうかは許可を受けた者が自由にこれを決めることができる事柄であり、右木竹の処分権に関する紛争は片上と控訴人間で解決されるべき問題であるから、本件許可処分がなされた当時、片上において本件木竹につき所有権その他の処分権を有していなかつたとしても、許可そのものは自然公園法に基づく許可として無意味なものとはいえないので、片上に許可処分を受ける法律上の利益がなかつたとか本件許可処分が無意味であるということはできない。したがつて、この点に関する控訴人の主張は採用できない。

二、そうすると、控訴人は、本件許可処分の取消し及び無効の確認を求める利益を有しないものといわねばならず、控訴人の本件訴えをいずれも不適法として却下した原判決は相当であるから本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条八九条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 館忠彦 松信尚章 西川賢二)

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